A Noisebuster's memorandum

本研究室において遭遇したノイズや音響機器等のトラブルについての "ノイズ・バスター" のメモです。アナログ信号を扱うみなさまの参考になれば幸いです。

ヘッドホンアンプのゲインの左右差

本研究室では、ヘッドホンを駆動するヘッドホンアンプに AT-HA20 (audiotechnica) を用いている。 AT-HA20 は パワー・オペアンプ TEA2025L (UTC) を用いた、ごく普通のヘッドホンアンプである。

ただし、バイノーラル信号を再生する実験では、左右チャンネルにそれぞれ一台の AT-HA20 を使っている。 その理由は、ヘッドホンアンプの内部で生じる電気的なクロストークから逃れるとともに、モノ信号を入力したときに 左右のヘッドホンから再生される音の音圧レベルを同じにしたいからである。

ある AT-HA20 の両チャンネルに全く同じ 1 kHz の電圧信号を入力したときの、ボリュームの位置(回転角度)に対する左右チャンネルのゲイン(電圧利得)差を下図に示す。 まず、ボリュームの位置を変えると左右チャンネルのゲインの差は変化した。次に、左チャンネルのゲイン(GL)は右チャンネルのゲイン(GR)よりも常に高く、そのゲイン差は最大で 0.8 dB (約 1.1倍)であった。

この左右のゲイン差は、入力端子直後に接続されている 50 kΩ の二連可変抵抗器の個体差に起因したものと考えられる。 おそらく、二つの可変抵抗器で軸の回転角に対する抵抗値がわずかに異なっているのだろう。

音楽を聴くのであれば、このような 0.8 dB の違いはさほど問題にならない。しかし、音の実験を行うときにはこれは放っておけない。 ヘッドホンアンプに接続するヘッドホンの感度も左右で全く同じではない。そこで、左右チャンネルにそれぞれ一台のヘッドホンアンプを使い、それぞれのボリュームを調整して、 例えば、 1 Vrms の 1 kHz の正弦波信号を入力したときに、左右のヘッドホンから出力される信号音の音圧レベルを等しくする必要がある。 音の実験を行う場合、こういった使用音響機器のキャリブレーション(較正)は欠かせない。

なお、ディジタルアンプでは、ゲイン調整、つまりボリュームの増減もディジタル処理しているものがある。 このようなものでは、ボリュームつまみの奥にあるのは二連可変抵抗器ではなくロータリー・エンコーダである。それで読み取ったパルス値に対応した数値で増幅度が決まる。 たとえば、TA-F501 (SONY) のヘッドホン端子で測定した"ボリューム"位置に対する左右チャンネルのゲイン差は下図に示すとおりである。"ボリューム"位置による左右のゲイン差の変化は少ない。

なお、現役として活躍しているアナログアンプの AT-HA20 はいまでも入手できるが、ディジタルアンプの TA-F501 はとっくにディスコン(discontinued: 製造中止)となっている。(2017年4月3日)

続・はじめての聴覚実験— ディジタルな世界に棲む人々に伝えたい、音を鳴らし、測り、聴き比べるときのお約束 —, 日本音響学会 聴覚研究会資料 Vo.40, No.8, H-2010-115, 635-640, (2010. 10 能美) (PDF 396kB)

Windows 7 と USB-AIF

旧聞になるが、2013年の末に研究室のコンピュータを全て Windows 7 の 64 bit 機に換えた。その余波がいくつか現れた。 その一つが、USB オーディオインタフェース UA-101 (Roland) を複数台接続したときの不具合であった。

新調した Win7 の実験用コンピュータに UA-101 を1台だけ接続したときは何の問題もなく信号の入出力ができる。 しかし、スピーカアレイからマルチチャンネルで刺激音を出力すべく、3台の UA-101 を接続すると、2台目と3台目の UA-101 からは正常に信号が出力されない。

音の入出力には pa_wavplay を用いている。 pa_wavplay は MATLAB から ASIO を介してマルチチャンネル信号の入出力を行う関数だが、 win32 版の mex ファイルしかリリースされていない。 そのため、 pa_wavplay は、MATLAB の 32 bit 版でしか利用できない。(MATLAB の 32 bit 版は Win7, 64 bit マシン上でも動作する。)

新調した実験用コンピュータの CPUは i7-4770、マザーボードは Z87M-D3H である。OS を Win7 の 32 bit にしても 64 bit にしても状況は同じ。 もちろん UA-101 のドライバーは OS に応じて 64 bit ないし 32 bit 版をインストールする必要がある。 また、UA-101 をフロントの USB2 ポートに接続しても、リアの USB2 ポートあるいは USB3 ポートに接続しても状況は同じ。 しかし、その少し前に導入した別の Win7 コンピュータ(CPUは i7-3770、マザーボードは Z77M-D3H)では、このような不具合は生じない。 したがって、不具合の原因はソフトウエアではなくハードウエアであると判断した。

そこで、Renesas 社製の μPD720101 を搭載した USB カードと、VIA 社製の VT6212 を搭載した USB カードを導入。 それらを件の実験用コンピュータに装着して用いると、全く問題なく3台の UA-101 から信号が出力され、一件落着。

なお、portAudio を利用してマルチチャンネルの音信号を入出力する playrec を用いた場合も、不具合の状況は同様であった。

この不具合の解決にあたったのは M1 の小島君だった。多謝! (2017年4月3日)

ワイヤレスヘッドホンとマイクアンプを
電池駆動したときに発生するノイズ

2014年の移動型テレヘッドは、両耳に小型マイクロホンを設置したダミーヘッドを移動プラットフォーム (Blackship: Segway) に搭載し、 収音したバイノーラル信号をマイクアンプ (AT-MA2: audio-technica) で増幅した後にワイヤレスヘッドホン (RS-220: Sennheiser) に入力し、 離れたところでバイノーラル再生するという構成であった。

通常、AT-MA2 も RS-220 の送信部もマイクアンプも専用の AC アダプタを用いて DC 9 V を供給する。 流れる電流は RS-220 が 160 mA (受信部の充電時は 250 mA)、AT-MA2 は 12 mA 程度である。 それらを載せた移動プラットフォームが自由に動き回れるように、図1に示すように 12 V のバッテリから AT-MA2 とRS-220 送信部に電源を並列に供給した。 定格電圧は 9 V だが 12 V を印加しても問題ない。バッテリーから電源を供給しても AT-MA2 と RS-220 はきちんと動作し、入力信号がヘッドホンから再生された。 しかし、その再生音にはフワーンという定常的な雑音とプチップチッというクリック雑音が重畳した。

 

この雑音は、AT-MA2 のゲインを絞っても、マイクロホンを取り外しても、RS-220 送信部の位置を AT-MA2 から遠ざけても減らない。 オシロスコープでバッテリーのプラス側とマイナス側の間では、周期が約 2.5 ms, 約 30 mVp-p の歪んだ三角波(黄色)が観測された。 同時に、RS-220 の入力端子を観ると、同じ周期で反転した約 10 mVp-p の歪んだ三角波(水色)が観測された。 これが聴こえてきたフワーンという定常的な雑音の正体である。 ダメ押しに、発振器から正弦波信号を AT-MA2 に入力して鳴き合わせを行うと、約 400 Hz でゼロビートがとれた。 また、いずれの三角波にも大振幅のイレギュラーな部分があった。これがプチップチッというクリック雑音の正体である。 さて、これらの雑音はどこで発生しているのだろうか?

いろいろと調べた結果、正常動作時の RS-220 では、アナログ入力端子のマイナス側 (G2) の電位は電源端子のマイナス側 (G1) よりも約 50 mV 高いこと、G1 と G2 を等電位にすると上記の雑音が RS-220 の内部で発生することが判明。すなわち、RS-220 送信部と AT-MA2 に接続する直流電源を別々にしないと雑音が出る。

一つのバッテリーから AT-MA2 と RS-220 両方に電源を供給すると、バッテリーの GND ラインを通じて G1 と G3 が、アナログ信号ラインケーブルの GND 側の線を通じて G2 と G4 がつながる。 AT-MA2 の 電源端子のマイナス側 (G3) と出力端子のマイナス側 (G4) は基板上の GND ラインでつながっているので、G1 と G2 はつながることになる。

RS-200 送信部を単独で動作させた場合でも、電源端子とアナログ入力端子にそれぞれプローブを接続してオシロスコープで観測すると、同じ雑音が出現する。 プローブの GND ラインはオシロスコープ内でつながっているので、G1 と G2 がつながってしまうからである。片方のプローブの GND 側の接続を外すと、雑音はぴたりとなくなった。

現用の移動型テレヘッドは、高速 IP コーデックを用いてバイノーラル信号をワイヤレス LAN で送受しており、このようなノイズの問題は無い。(20017年4月3日)